車田正美の未完の名作

       「男坂」で、君よ!涙しろ!!

 

なんか、泣け泣け!!、である。
別に泣かせたい訳じゃないけど、テーマは車田正美の「男坂」である。
泣かないと男じゃない。
マルチシナリオで泣かないやつは男じゃないのといっしょである。
ゆりみぃといっしょ、なのだ。

車田正美はその「男坂」1巻で次のようにコメントしている。

漫画屋にとって「オレはこいつをかきたいために、漫画屋になったんだ!!」という作品がある。
 デビュー以来十年有余、オレの頃からかきたかった作品を手がけている。
 その喜びでいっぱいだ。
 燃えろオレの右腕よ!そして、すべての試練をのりこえて、はばたけオレの「男坂」!!


だが、この満画は残念ながら打ち切られた(トホホ)。昭和60年のことだった。
3巻最終巻のコメントを見てみよう。

「えー構想十年ーと銘うってはじまった、この「男坂」だったのだが、
 どうも作者の思い入れとは裏腹に、周囲の状況がそれを許さず、
 ついに未完のまま中断せざるをえないことになってしまった。
 しかし、読者の熱い支持が得られるなら、すぐにでも続編をかきたいと思っている。
 この「男坂」が自分にとって、最後までかきつくしたい作品であることは、
 いつまでも変わらないのだから……。」


「リングにかけろ」が大ヒットし、続く「風魔の小次郎」もヒットした。
いやがおうにも、次回作への期待も高まろうというもの。
その「男坂」だったのに…、何故ダメだったのか…。

まず、最大戦犯は、
「けんか鬼」(笑)である。
勝者の教育を受けたケンカのプロ、武島 将に、そして何よりも己に勝つために、
主人公菊川仁義はケンカの神様に弟子入りする、とここまでは世界観的には
オッケーなのだが、なにせその主人公が弟子入りするケンカの神様の名前が
「けんか鬼」っス〜。
ダ、ダセエ、ダサすぎっスよそのネーミング。
「ヨーコ」の亡霊艦長(笑)じゃないんだから…。

と、ここまで書いてきたが、今改めて読み直してみると、
場所も九十九里だし、登場人物もどこか垢抜けない。
そういうダサさも演出だったのか…!、などと思ってしまった。
主人公的には、「リンかけ」の石松と「男一匹ガキ大将」をミックスしたような感じです。

次に、仁義と黒田闘吉との友情の芽生えを描いたエピソードの次に、
JWC(ジュニア・ワールド・コネクション)は飛躍しすぎっス〜。
このJWC(ジュニア・ワールド・コネクション)というのは、要するに、
世界中のガキ大将が一同に集まってジュニア組織を検討しあう会議(笑)
の事で、何とここで、車田マンガ的に闘っていくであろう主要なドンが、
軽々しくも顔見せしてしまう。

車田マンガの見せ場はやはり、
新キャラの登場シーンでしょう。
(まあ「風魔」の死牙馬(シグマ)が何故学ランを着てるのか(笑)、などという
議論もあるが、まぁそれはおいといて、)
とにかく主要なドンが顔見せしてしまった時点で、
車田マンガの最大の見せ場のひとつがなくなってしまった。
まさに
ドッチラケである。

車田マンガのもうひとつの見せ場、それは
ニューブローシーンである、
「ジャコビニ流星打法!!」じゃなかった「ギャラクティカマグナム!!」
「ブーメランスクエア!!」、、、こ、これぞ車田マンガの醍醐味っス。
なのになのに、主人公がまだ地がためをしている際中で、
戦艦は出てくるは、シカゴ軍団が出てくるは、
同じような顔のキャラが一度にぞろぞろ出てきてしまい、
読者は車田世界についていけなくなってしまった。

まあ、きっと、「けんか鬼の先生」にニューブローを教わり、またひとつ大きくなる
主人公、そして、「けんか鬼」は「リンかけ」の菊ねぇちゃん的な役割を果たしていく
設定だったのだろう。
そして、武島 将は「リンかけ」世界の剣崎となり、菊ねぇちゃん「けんか鬼」コーチ
の元、石松的要素をもった高嶺竜児「菊川仁義」が、武島 将を追いかけつつ、
時に助け合いながらも死闘を繰り広げる…、そんなストーリーだったのだろう。
だが、実際は主人公が地がためをしている際中で、
必殺技をひとつも生み出さないうちに、
同時に世界を敵にしなければならないという、
車田マンガにあるまじき失態を演じてしまった。

そして収拾のつかないまま、2ページ
見開きで「未完!!」で打ち切りということになる。

その後、「セイントセイヤ」でメガヒット、「ビートエックス」、と売れ線に走るんだけど、
この、車田正美の失敗作、未完の名作「男坂」を忘れてはならない。
何故なら、このいなたい世界観、本宮系列の世界を見据えた上での義理・人情・友情・勝利の
作風こそ、実は車田正美が一番描きたい世界だったからだ、と思うのだ。
この作品を頭にいれて、他の作品を読めば、よりいっそう車田世界を堪能できると思う。

車田正美の未完の名作「男坂」で、

君よ!涙しろ!!


※車田正美先生の敬称は文章上のリズムがくずれるので、略させて頂きました。